不妊専門鍼灸院 銀のすずは
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卵子と精子の質を改善できる?

皆さんセレンという物質はご存知ですか…?

セレンは元素のひとつで、原子番号34、元素記号Se、別名セレニウムと呼ばれる金属です。
赤色セレン、灰色セレンなどいくつか同素体がありますが、灰色の金属セレンが最も常温で安定した構造を持ちます。
※同素体…同一の元素からなる単体で性質の異なる物質のこと

人間に必要不可欠な必須微量ミネラルの一つであり、体内で合成することができないため食事やサプリからの摂取が必要な栄養素です。

セレンは1817年に発見され、毒性の強い元素といわれていましたが、1957年に人間の身体に必要な微量ミネラルであることが判明しました。
セレンの代表的な働きはビタミンEの60倍もの抗酸化作用です。
これはかなり重要な成分であることがわかりますね。
ただし、もともと微量元素であるため、過剰摂取は注意が必要です。
1日の必要量、中毒量などについては後述します。

セレンの名称は、元素の周期表に基づいています。
テルルという金属の一種と性質がよく似ていたため、周期表上でテルルのすぐ上に位置づけられました。
※周期表…理科で勉強しましたね。「スイヘーリーベーボクノフネ・・・」です。

テルルはラテン語で地球を意味し、地球の上にはすぐ月があることやセレンが燃える際に月のような光を出すことから、ギリシャ神話の月の女神である"セレネ"を由来とし、名づけられました。

セレンは自然界に広く存在しており、土壌、水、特定の食品などに含まれています。
自然の中では、地殻や海水、土壌などに多く含まれており、水銀などの毒性を軽減する作用があることが分かっています。

誰も知っている水銀汚染による水俣病があります。
水俣病…熊本県水俣市でおこった公害
化学工場から海や川に排出された"メチル水銀化合物"が原因物質。
この物質を魚、エビ、カニ、貝などの魚介類がエラや消化管から吸収し、体内にメチル水銀化合物を高濃度に蓄積した。
これらの魚介類を日常的に多く食べてしまった人々に発症したのが水俣病で中毒性中枢神経疾患である。
症状は、四肢末端の感覚障害(手足の末端に近づくほど触覚、痛覚が鈍くなる)、小脳性運動失調(不安定、動揺性の歩行でふらふら歩く)、中枢性眼球運動障害(視野が狭くなる)、中枢性聴力障害、中枢性平衡機能障害など。
(母親が妊娠中にメチル水銀の曝露を受けたことにより、脳性小児マヒに似た症状を持ち出生する胎児性水俣病もある)

セレンを日常多く摂取している人は、症状か軽かったのではないかといわれています。

セレンは人間の身体では肝臓や腎臓に多く含まれ、成人では体内にセレンが10~15㎎ほど存在しています。
この栄養素って本当に摂取が必要なの!?というくらい微量にしか存在しません。
しかし、体内でこれほど少量しか存在しないセレンでも私たちの身体にとって欠かせない働きを担っているのです。

ではセレンの働きを詳しく見ていきましょう。

セレンは、体内で抗酸化反応をつかさどる酵素やタンパク質の一部を構成する重要な役割を担っています。
抗酸化反応を持つ酵素とは、身体の活性酸素が増えすぎないように戦っている物質です。

そもそも活性酸素は100%悪い物質ではありません。
身体の中に侵入した細菌やウイルスをやっつけてくれる働きを持つため、ある程度は必要です。

しかし、活性酸素は非常に強烈な酸化力を持っています。
活性酵素が増加しすぎると、細菌やウイルスなどの悪い細胞だけでなく、身体に必要で無害な良い細胞まで攻撃してしまい、ありとあらゆる細胞たちを傷つけてしまうのです。

結果、私たちの体内のさまざまな臓器がボロボロになり、生活習慣病や老化の原因に繋がります。
ここで話す老化というのは、外見のことだけではありませんよ。
細胞すべてが老化するのですから、卵子の質や卵巣、子宮の働き、精子の質にも悪影響を及ぼします。
妊活中に最も避けたいところですよね・・・。

さて、活性酸素はどのように増えていくのでしょうか?

実は、ただ呼吸をしているだけで増加します。
みなさん、毎日生きるために呼吸をしていますよね?
私たちは酸素を吸気し、二酸化炭素を呼気することで、生命活動を維持しています。
一日に吸っている酸素の量は700~3000L(大人で)にも及びます。
この酸素の2~3%ほどが活性酸素となります。
毎日14~21L(700Lとして)も作られる計算です。

呼吸のみではなく、ストレスや紫外線、喫煙なども増加の原因の一つといわれています。
身体によさそうな運動でも、激しすぎる運動は通常よりも多くの酸素を吸気するため、その分活性酸素になる量が増加することになります。
また、ミトコンドリアでエネルギーを産生する際にも活性酸素が発生することが分かっています。
生きているだけで勝手に活性酸素は増加していくのです。

喫煙や激しい運動などの要因はある程度排除できても、生きていくためには酸素が必要なため、活性酸素の増加は止められるものではないのです。

では、減らすことはできないのでしょうか…??
活性酸素の増加をコントロールしてくれるのが、先ほど上述した抗酸化作用を持った酵素たちなのです。

残念なことに、抗酸化酵素の量や作用する力は、年齢で変化します。

例えば、中高生が部活で激しい運動をするとしましょう。
激しい運動を重ねれば、活性酸素は増え細胞を破壊し老化を進行させるというのに肌がぴちぴちで若々しいですよね。
実は、体内に含まれる抗酸化酵素の量は、若ければ若いほど多く、作用も強力なのです。

しかし、年齢を重ねると抗酸化酵素の量は減少、作用も弱くなります。
活性酸素をコントロールするためには、加齢とともに、抗酸化物質や合成に必要な栄養素を体外から摂取する必要があるわけです。

今回のテーマである"セレン"は抗酸化酵素の合成に必要不可欠な栄養素なのです。

では、体内でどのように存在し、吸収されていくのでしょうか…?

まず、セレンはセレノシステインとしてタンパク質に組み込まれます。
タンパク質に結合して存在しています。
※セレノシステイン…アミノ酸の一種で、酸化・還元に関わる酵素に存在している

そして、主にセレノプロテイン(タンパク質の一種)として働きます。
消化管(ほとんどが小腸)で吸収され、摂取した内のセレンの吸収率は50%以上です。
この吸収経路はタンパク質とほとんど一緒で同時に行われていると考えられています。
※セレノプロテイン…セレノシステインを1つ含むタンパク質のことで、酸化還元酵素となる(グルタチオンペルオキシダーゼ、テトラヨードチロニン-5'-脱ヨウ素化酵素、チオレドキシン還元酵素、ギ酸デヒドロゲナーゼ、グリシン還元酵素など)

セレンの重要さが分かるセレノプロテインの酵素をいくつか紹介しておきます。

※セレノプロテインP…セレノシステインを10つ含むタンパク質のこと
血漿中で最も一般的にみられるセレノプロテイン
ほとんどが肝臓で合成され、セレンを末梢臓器へ輸送、または貯蔵に関与すると考えられる
セレンが運ばれる末梢臓器は、主に脳や精巣である。
不足すると精子形成不全がみられるため、男性にとっては特に重要である(セレンをはじめ、亜鉛や銅などの微量元素たちは、精巣の発育、精子の形成や運動率といった男性の生殖器に深くかかわる)。
セレノプロテインPには、活性酸素の消去をする役割があると考えられる

※グルタチオンペルオキシダーゼ…酸化的損傷を防ぐ多方面に必要な抗酸化酵素である
中でも、過酸化脂質の生成を抑制するがん予防になると考えられている


私たちの身体を構成する約35兆もの細胞たちには、それぞれ脂質による細胞膜が存在します。
この細胞膜には不飽和脂肪酸が含まれており、とても酸化しやすいという欠点を持っています。
脂質が酸化を起こすということは、すべての細胞膜を老化させる可能性があり、動脈硬化などをも引き起こします。

過酸化脂質の蓄積により、AP-1の活性化が促進されます。
AP-1の過活性による変異により、VEGF(血管内皮増殖因子)やIL-8(インターロイキン)が増加します。
これにより肝臓がんが発生すると考えられています。
過酸化脂質の増加を防ぐ酵素として、グルタチオンペルオキシダーゼが重要なのです。

※AP-1…常にDNAに結合している転写因子
AP-1の変異は、がんにおける最も多い原因と考えられている。

*VEGF(血管内皮増殖因子)…血管新生やリンパ管新生の際に必要な因子
悪性腫瘍、糖尿病網膜症、動脈硬化症などの疾患の際に、血管新生やリンパ管新生を促進して、病態を悪化させる。

※IL-8(インターロイキン)…MDSC(骨髄由来抑制細胞)を腫瘍微小環境へ運ぶ
血管新生を促進し、VEGF同様に病態の悪化を招く。

※MDSC(骨髄由来抑制細胞)…骨髄系列の細胞に由来し、T細胞の免疫反応を抑制する

※ヨードサイロニン脱ヨード酵素…ヨードチロニンは、T4(甲状腺ホルモン:サイロキシン)の別称の一つ
甲状腺ホルモンの代謝を調節する。
この酵素は大きく3種類存在し、それぞれ分布域や特性が異なる。

甲状腺ホルモンについて少し説明します。
甲状腺ホルモン(TH)は、私たちの身体の正常な発達と代謝に必要不可欠です。
甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)を生成する際に、ヨウ素が必須成分となります。
T4は、ヨウ素を4つ必要とし、甲状腺でのみ生成されます。
T3は、ヨウ素を3つ必要とし、約20%は甲状腺から分泌されます。
残りの約80%は、T4が肝臓や腎臓などの標的臓器の中で、脱ヨード酵素によりヨウ素を一つ代謝することでT3に変換します。
そして、やっと甲状腺ホルモンとしての働きを発揮します。
というのも、この2種類の甲状腺ホルモンはそれぞれ役割が異なります。
ざっくりいうと、T4は貯蔵、調節型のホルモン、T3は活動型のホルモンです。
甲状腺ホルモンは、目的臓器内の細胞核にある受容体と結合することで働きを発揮します。
この受容体との結合力は、活動型であるT3の方がT4の約10倍も強力で、甲状腺ホルモンの働きを見せやすい特徴があります。
強力な働きを見せる反面、血液中から代謝されるのが速いのもT3です。
T3はT4に比べると、強力ですが、仕事をしている時間は短いのです。
血液中の甲状腺ホルモンは、ほとんどT4を中心に分泌されており、T3が占める割合は2%ほどです。
T4からヨウ素を一つ切り離すとT3となるため、T4はT3の前段階のホルモンとなります。
少量のT3を安定的に供給するために、T4は貯蔵され、必要に応じて血液中に放出するなど調節役として存在しているのです。
甲状腺ホルモンの合成に欠かせないヨウ素ももちろん重要ですが、T4をT3に変換する際に脱ヨード酵素が必要になります。


セレンを源に合成される酵素の活躍は幅広いことは、お分かりいただけたでしょうか?
抗酸化物質になるだけでなく、精子形成や甲状腺ホルモンの生成など、様々な臓器で深く関わってくるのです。
妊娠の成立、妊娠維持には、精子の状態や甲状腺ホルモンの正常な働きが密に関わっています。
なんだかセレンがとても重要な栄養素である気がしてきませんか?

私たちの体内では、1㎏あたり250μgのセレンが存在しています。
60㎏の体重の場合、15㎎(15000μg)存在することになります。

では、1日にどのくらいの量のセレンを摂取するべきなのでしょうか?
1日のセレンの推奨摂取量は、成人男性が30μg、成人女性が25μgとされています。
セレン、セレニウム、抗酸化物質

何をどのくらい食べればいいのか把握するために、どのような食品にセレンが多く含まれているかみていきましょう。
食材100gあたりのセレン含有量
抗酸化物質、アンチエイジング

このように、セレンは魚介類、肉類、卵などのタンパク質に多く含まれる傾向があります。
同じ食品でも、育つ産地の土壌や飼育肥料によってセレンの含有量は異なります。
日本の土壌はセレンが豊富に含まれているため、他国よりも無理なく摂取できる栄養素です。
日本食には海産物も多く含まれているため、不足する心配はほとんどないのです。

ちなみに、日本人は毎日の食事から100gのセレンを摂取しているといわれており、セレンの吸収率が50%だとしても不足していることは考えにくいです。
とはいっても、人間の身体にとって重要な栄養素ですので意識は必要です。
先程述べたように、セレンの摂取不足は身体中で様々な症状を引き起こす恐れがあります。
セレンを多く含む食品を把握し、毎日どの程度摂取しているのかは考えておきましょう。

セレン欠乏症による代表的な疾患について少しお話しておきます。

克山病(こくさんびょう)…心筋症の一種で、うっ血性心不全、心臓突然死、不整脈などの症状がみられる
中国の風土病の1つで、1935年に中国の克山地域(北東部、黒滝江症)で発見されたため、克山病と名付けられた。
山岳部、農村で発生し、小児や妊産婦で多く罹患した。
セレンのサプリの摂取で発生率も死亡率も激減させることができる。

カシン・ベック病…低セレン地域である中国北部やシベリアの一部で子供に多く発症する
症状は、X脚やO脚、自然骨折など骨や関節が変形する。
寒さや過可動で疼痛が増強する。
小児では四肢の発育障害、成人では骨粗鬆症、変形性関節症がみられる。
原因として考えられるのは、セレンなどのミネラル不足だけでなく、キノコやカビなどの菌類の摂取とされている

その他、セレン欠乏によって起こる症状一覧
フケの増加、抜毛、白内障、シミの増加、大気汚染に弱くなる、筋力低下、心機能の低下(心筋症・不整脈・動脈硬化などの発症)、発癌リスクが高まる、老化が早まる、男性では精子減少、女性では更年期障害の悪化など

生体内で重要な働きを持つセレンは、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質と摂取すると、相乗効果を見せ抗酸化力がアップします。
私は、ビタミンC3000㎎、ビタミンE268㎎、セレン200?gを毎日飲んでおります。
老化によって見た目もそうですが、関節なども壊れてくるので予防を兼ねて。
皆さんもさまざまな抗酸化物質を上手に摂り、良質な卵子や精子を作り上げようではありませんか。

年齢とともに老化が進むのは仕方ないことです。
しかし、妊娠を考えている場合、いかに老化を食い止めるか、いかにカラダに必要な栄養素を摂るか、そしてその栄養を目的地まで運び届けるかの3点がカギを握ります。

もう一度、書きます。
・老化を止める
・必要な栄養摂取
・しっかり届ける

この3点が成し得たとき、きっと卵子や精子は元気に育ってくれるでしょう。

簡単に書きましたが、内臓系、自律神経系、免疫系などすべてを駆使して行われています。
つまり原則、元気で健康である必要があります。
さらに、栄養も考えて摂らねば、毒になるものも日常には多く存在します。

まずはご自身の生活を見直すことから始めましょう!!!
何かございましたらご質問ください。
銀のすず